ボールカルチャー/ヴォーギング

1970〜80年代のニューヨークで、黒人・ラテン系のゲイおよびトランスジェンダー女性たちによって形成されたアンダーグラウンド文化。「ボール」と呼ばれるイベントを中心に発展し、参加者たちは「ハウス」と呼ばれるコミュニティ単位で集い、ウォーキング(歩き方・存在感を競う演技)やダンスのカテゴリー別に競い合った。

この文化の核にあるのは、「ハウス」という疑似家族の構造である。家族から捨てられた若いクィアやトランスジェンダーを、年長のトランス女性が「マザー」として受け入れ、育てた。制度的なケアからも主流のゲイコミュニティからも排除されがちだったトランス女性たちが、コミュニティの中でケアの担い手となったことは、ケア倫理の観点からも注目に値する。ボールカルチャーは、行き場のない人々が自らケアの回路を作り出した場であった。→チョーズン・ファミリー

ヴォーギングはボールカルチャーから生まれたダンススタイルで、ファッション誌『VOGUE』のモデルが誌面でとるポーズの動きを様式化したものである。1990年にマドンナがシングル「Vogue」で世界的に広めたが、その起源はあくまでも黒人・ラテン系トランス女性たちのコミュニティにある。

ボールカルチャーは2018年のドラマ『ポーズ(Pose)』によって広く知られるようになり、再評価が進んでいる。→マーシャ・P・ジョンソン、チョーズン・ファミリー、キャンプ美学